任意保険が保険適用外で対応できないとは、どういうこと?

執筆者:弁護士 西村裕一 (弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士)

大まかに分類すると、以下の場合は、保険会社は保険金を支払うことができずに、被害者対応をしてくれません。

  • 加害者の賠償責任保険の適用とならない事故(保険金目的で、予め綿密な計画により、通謀した相手を死亡させた場合等)
  • 通常の生活では発生しない事故(戦争や自然災害による場合等)
  • 保険会社との取決めに関係する事故

また、加害者が保険料を未払にしてしまい、保険が失効してしまった場合も対応ができなくなります。

 

加害者の賠償責任保険の適用とならない事故

自動車保険の支払基準については、一定のルールが定められています。このルールブックのことを「約款」といいます。

約款には、具体的に、賠償保険が適用されるケースはもちろん、適用がされずに免除となる免責要件についても記載がなされています。

主な免責事項は以下のとおりです。

免責事項

  1. 保険契約者、記名被保険者またはこれらの者の法定代理人の故意
  2. 記名被保険者以外の被保険者の故意
  3. 異常危険とそれにともなう随伴損害
    • 戦争、海外の武力行使、革命、政権奪還、内乱、武装反乱これらに類似の事変または暴動
    • 地震もしくは噴火またはこれらによる津波、台風、洪水、高波または津波
    • 核燃料物質もしくは核燃料物質によって汚染された物の放射線、爆発その他有害な特性の作用またはこれらの特性に起因する事故
    • 被保険自動車を競技、曲技もしくは試験のために使用すること、または被保険自動車を競技、曲技もしくは試験を行うことを目的とする場所において使用すること(練習を含む)
    • 被保険自動車に危険物を業務として搭載すること、または被保険自動車が危険物を業務とし積載した被牽引自動車を牽引すること

「記名被保険者」とは
保険証券に記載されている被保険者であり、常に法律上責任を負担する者(個人・法人)をいいます。
上記のうち、自然災害に伴う損害としては、大地震の発生により思わずハンドルを切ったところ、人が道路上にいてぶつかってしまった場合はこの免責条件が問題となりえます。

 

 

被害者が特定の被害者である場合の支払対象とならない事故

また、自動車保険では、交通事故の被害者が一定の関係にある場合には、対人賠償保険の適用対象外となってしまいます(下図)。

図 被害者の属性により対人賠償の適用対象外となる場合

項目 対人賠償責任固有の免責 対物賠償責任固有の免責
対人事故で以下の人に損害を与えた場合には、任意保険は支払われません。 対物事故で以下の者の所有、使用または管理する財物に損害を与えた場合には、任意保険は支払われません。
記名被保険者 記名被保険者
被保険自動車を運転中の者またはその父母、配偶者もしくは子 被保険自動車を運転中の者またはその父母、配偶者もしくは子
被保険者の父母、配偶者または子 被保険者またはその父母、配偶者もしくは子
被害者の業務(注)に従事中の使用人
被保険者の使用者の業務(注)に従事中の他の使用人。ただし、被保険者が被保険自動車をその使用者の業務(注)に使用している場合に限ります。

(注):家事を除きます。

記名被保険者が法人(会社等)である場合は、法人そのものが記名被保険者であり、その法人の取締役、理事は記名被保険者ではないので、それらの人が被害者となった場合、②のように自分が自動車を運転していたわけではなければ、損害賠償を保険会社より受けることができる可能性があります。

また、「父母」には、実父母の他に、養父母(民法上)を含みますが、義父母(配偶者の父母)は含みません。

そして、「配偶者」には、戸籍上の届け出をしていない内縁(事実婚)も含むとされています。「子」には、実子のほか養子縁組も含まれます。

 

 

その他の免責事項

加害者が加入している保険の保険料を支払ってない場合は、保険会社は保険金を支払うことができません。

よくある例として、自動車保険料を分割払いしている場合には、事故の前の2か月間保険料が支払われていない場合は、保険の効力がなくなってしまい、保険会社は対応できなくなります。

また、加害者が車を新たに購入したものの、その車両を保険会社に届け出せずに報告を怠っていた場合は、同じく免責となり保険対応ができません。(通常は購入後1か月間、猶予期間があります。)

さらに、保険料を安くするために、運転者の年齢条件を設定してた場合用途を限定していた場合には、その年齢条件に違反したり、用途に違反したことで発生した交通事故については、保険会社が対応できないという事態が起こります。

例えば、運転者の年齢条件を21歳以上に設定したにも関わらず、18歳が運転して交通事故を起こしてしまったような場合です。

保険料は安くなる分、条件をしっかり守って使用することが契約者には求められています。

保険会社から対応できないと言われた場合は、その理由をよく確認したほうがよいです。

保険会社には、保険金を支払うことができないことを説明する責任があります。保険金が支払われない理由を、保険会社から必ず書面でもらうようにしましょう。

 

 

任意保険が適用できない場合

人身傷害保険が使えない場合には、被害者が加害者の自賠責保険に被害者請求をしなければなりません。

被害者請求については、下記のページで解説しているとおり、必要書類も多く、非常に面倒な手続です。

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被害者請求とは

弁護士に依頼することで、被害者請求を被害者の方に代わって行ってもらうことができます。

また、人身傷害保険が使用できる場合でも、後遺障害の申請を依頼することで、弁護士が被害者請求を行い、適切な後遺障害が認定されるように手続を進めることも可能です。

任意保険が使用できない以上、自賠責保険が使用できない車の修理代などの物損はもちろん、万一自賠責保険の限度額を超えた損害については、加害者本人に賠償義務が生じます。

このような面倒なやり取りを弁護士に依頼することで、全て弁護士が被害者の方に代わって行います。

弁護士名による内容証明郵便の送付や裁判の提起など、少しでも賠償金の回収可能性を上げるために弁護士がサポートをいたします。

特に、弁護士費用特約がついている場合には、弁護士費用が原則300万円までは保険会社が負担してくれます。

 

 

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