夫婦間の事故。だれに損害を請求できる?【弁護士が解説】

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

損害賠償請求についての質問です。

夫の運転する自動車に同乗中、夫の自損事故で怪我をしました。

だれに損害を請求すればいいのですか?

 

 

弁護士の回答

強制保険である自賠責保険・共済に請求することができます。

自賠責保険は夫婦間の事故であっても怪我をした場合、賠償請求ができるからです。

しかし、任意自動車保険の対人賠償保険には請求できません。

契約者を補償する人身傷害保険や搭乗者保険の請求は可能です。

 

夫婦間の不法行為による損害賠償請求

不法行為とは、故意や過失によって他人に損害を与えることで、交通事故も不法行為です。

最高裁判所は、「夫婦の一方が不法行為によって他の配偶者に損害を加えたときは、原則として、加害者たる配偶者は、被害者たる配偶者に対し、その損害を賠償する責任を負うと解すべきである」と夫婦間での損害賠償請求を認めました(最判昭和47年5月20日)。

 

 

自賠責保険での補償

自賠責保険とは

自賠責保険(共済)とは、公道を自動車で走行する際には、必ず加入しなければならない強制保険です。

自賠責保険に加入せずに、公道を自動車で走行した場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。

自賠責保険(共済)の証明書を所持していなかっただけでも30万円以下の罰金が科せられます。

また、刑事罰だけでなく、違反点数6点が付され、即座に免許停止処分の行政処分も課されます。

自賠責保険がカバーできる賠償の範囲は、傷害部分(治療関係費、通院交通費、休業損害、看護料、入院雑費、傷害慰謝料など)については、120万円が限度額となっています。

後遺障害に認定された場合には、等級に応じて限度額が決まっています。

 

夫婦は他人か?

自動車損害賠償保障法3条には「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と定められています。

この条文からすれば、法律上、「他人」にケガを負わせたり死亡させた場合に自賠責保険が使用できることが分かります。

そこで、夫婦が「他人」にあたるのかが問題となります。

この点について、最高裁判所の判例があります。

この条文の「他人」の意味について、最高裁判所の判例は「自賠法3条は、自己のため自動車を運行の用に供する者(以下、運行供用者という)および運転者以外の者を他人といっているのであって、被害者が運行供用者の配偶者だからといって、そのことだけで、かかる被害者が右に言う他人に当たらないという論拠はない」と、運転者と被害者が夫婦であっても、自賠法3条では「他人」となるとし、運転者配偶者への自賠責保険の支払いを認めました。

したがって、夫婦のいずれかが運転していて、他方にケガを負わせた場合には、自賠責保険を使用できることになります。

 

 

任意保険の扱い

自動車事故で怪我をした人は加害者の自賠責保険・共済で治療を受け、傷害補償額を超えたとき、任意自動車保険に組み込まれている対人賠償保険から治療費が支払われます。

しかし、任意自動車保険の自動車保険普通保険約款において、対人賠償保険の「保険金を支払わない場合」には、以下のとおり記載されています。

当会社は、対人事故により次のいずれかに該当する者の生命または身体が害された場合には、それによって被保険者が被る損害に対しては、保険金を支払いません。

  • 被保険自動車を運転中の者またはその父母、配偶者もしくは子
  • 被保険者の父母、配偶者また子

つまり、運転手の夫が妻に怪我をさせても、任意自動車保険の対人賠償保険からは保険金は支払われません。

このような場合、加入している任意自動車保険に組み込まれている搭乗者傷害保険や人身傷害保険を使用します。

 

搭乗者傷害保険

搭乗者傷害保険とは、被保険自動車の運転手、同乗者の怪我を契約に応じて、定額補償する保険です(よく見舞金と呼ばれている保険です)。

被保険自動車の運転手、被保険者の配偶者や家族も補償されます。

搭乗者傷害保険を使用しても、保険の等級には影響しません。

人身傷害保険

人身傷害保険とは、交通事故により死傷した場合、過失割合に関係なく損害を補償する保険です。

搭乗者傷害保険と同様、被保険自動車の運転手、被保険者の家族も補償されます。

人身傷害保険を使用しても、保険の等級には影響しません。

もっとも、対人賠償、対物賠償保険を使用した場合には、等級は変わります。

 

 

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