逸失利益とは?早見表でわかりやすく解説|計算ツール付

執筆者:弁護士 西村裕一 (弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士)


逸失利益(いっしつりえき)とは、仮に事故が起きなかった場合、将来得られたであろう収入の減少分のことをいいます。

交通事故に遭うと、後遺障害(こういしょうがい)、すなわち、怪我によって体等の不具合が残ってしまう場合があります。

この後遺障害が残ると、十分に働くことができなくなり、将来の収入の減少が予想されます

この減収に対する補償のことを逸失利益といいます

逸失利益がいくらになるかは、交通事故被害者の方が適切な賠償金を受け、被害を回復するためにとても重要です。

そこで、このページでは、逸失利益の計算法や請求方法等を交通事故にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。

ぜひ参考になさってください。

なお、この記事を最後まで読んでいただけると次のことが理解できます。

この記事でわかること

  • 自分の逸失利益がいくらになるのかを簡単に計算できる
  • 逸失利益の具体的な内容を知ることができる
  • 逸失利益の正しい計算方法を知ることができる
  • 逸失利益を請求する上でのポイントを知ることができる

逸失利益とは?

逸失利益とは、仮に事故が起きなかった場合、将来得られたであろう収入の減少分のことをいいます。

逸失利益の読み方

逸失利益は、「いっしつりえき」と読みます。将来の「利益」を逸して(失って)しまったという意味を持ちます。

なお、逸失利益は英語では loss of profit と表現されます。

逸失利益の図

逸失利益には2種類ある

逸失利益には、後遺障害の逸失利益死亡の逸失利益の2種類があります。

逸失利益は2種類

以下、それぞれ説明します。

後遺障害の逸失利益

事故によって、体の痛みや可動域制限(関節の動かしづらさ)などの後遺障害が残ってしまう場合があります。

後遺障害が残ると、労働能力が低下し、将来の収入の減少が予想されます

逸失利益は、このような減収に対する補償のことをいいます。

逸失利益は、交通事故の場合に問題となることが多いですが、暴力事案、労働災害、医療事故などでも生じる可能性があります。

死亡の逸失利益

事故により被害者が死亡した場合には、被害者が生存していれば得ることができたはずの収入が得られなくなります。

死亡の逸失利益は、この得られなくなった収入を補償するものです。

相続人である遺族が、加害者に対して請求することができます。

 

なぜ逸失利益を請求できるの?法的な根拠とは?

交通事故の場合、逸失利益を請求する法律上の根拠は、民法第709条という法律にあります。

この法律は、交通事故のような不法行為が問題となる事案において、加害者の損害賠償義務を認めています。

【根拠条文】
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用:民法|電子政府の窓口

 

 

逸失利益と賠償金との関係

交通事故でケガをすると、逸失利益以外にも様々な損害が発生します。

例えば、治療費や車の修理代などの支出があります。

また、会社を休むことになった場合の休業損害、精神的苦痛を負ったことによる慰謝料なども損害です。

これらの損害のことをまとめて「賠償金」といいます。

したがって、逸失利益は、賠償金の中の一つということになります。

逸失利益と慰謝料との違い

慰謝料は、「精神的な苦痛を負ったこと」に対する賠償金となります。

これに対して、逸失利益は予想される「収入の減少」に対する賠償金となります。

死亡あるいは後遺障害が残った場合は、収入の減少が予想されるだけでなく、精神的な苦痛も発生します。

そのため、逸失利益とは別に、死亡あるいは後遺障害の慰謝料も請求することとなります

 

逸失利益と休業損害との違い

休業損害 入院や通院をしている期間の収入減少に対する補償
逸失利益 死亡した時点あるいは症状固定となった時点以降に将来的にどの程度収入が減少するであろうかということに対する補償

逸失利益は、収入の減少に対する補償ですので、治療費といった支出を余儀なくされるという積極損害ではなく、消極損害と位置づけられます。

逸失利益と同じく消極損害に位置付けられるものとしては、休業損害があります。

休業損害は、交通事故による入院や通院によって、仕事や家事を休んだことに対する補償です。

そうすると、休業損害と逸失利益は何が違うのでしょうか。

休業損害は入院や通院をしている期間の収入減少に対する補償であるのに対し、逸失利益は死亡した時点あるいは症状固定となった時点以降に将来的にどの程度収入が減少するであろうかということに対する補償になります。

事故により労働ができなくなったり労働能力が低下したりすることに対する補償という点で両者は共通しますが、逸失利益は将来に向けての労働能力低下に対する補償であり、予測が含まれるという点で異なります。

つまり、治療中の期間は休業損害、後遺障害として取り扱われて以降は逸失利益というように、ある時点を基準に請求できる項目が変わるということになります。

この「ある時点」とは、具体的にはどの時点を意味するかというと、後遺障害の場合は症状固定の時点死亡の場合には死亡した時点ということになります。

 

 

後遺障害の逸失利益の計算方法

それでは、具体的に後遺障害の逸失利益はどのように計算するのかについて、以下で解説していきす。

逸失利益の計算方法については、計算式が決まっており、以下の数式で求められます。

逸失利益の計算方法

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

したがって、逸失利益を求めるには、

  1. ① 基礎収入
  2. ② 労働能力喪失率
  3. ③ 喪失期間に対応するライプニッツ係数

の3つの数値を確定する必要があります。

以下、この3つの数値の意味について、くわしく解説します。

①基礎収入とは?

このように逸失利益を算出するにあたっては、まず最初に基礎収入を求めなければなりません。

基礎収入とは、被害者がどの程度の収入を得る見込みがあるかどうかということです。

したがって、被害者の方が交通事故にあう段階でどのような職業についていたか、年収はどの程度あったのかということがポイントになります。

休業損害の項目でご説明したこととほぼ同じで、被害者の職業によってどのように基礎収入を認定するかが異なります。

以下では、被害者がどのような立場にあったかに応じて解説をしていきます。

 

会社員の場合

交通事故にあった時点で被害者が会社員だった場合には、今後も会社員として仕事をしていく可能性が高いといえます。

そのため、原則として交通事故にあう前の年の年収を基礎収入とします。

【例外】30歳未満の場合には賃金センサスを基礎収入とすることがある

会社員でも高校や大学を卒業したばかりの新卒社員の場合、実際の収入ではなく、賃金センサス※を基礎収入とすることが多いです。

※賃金センサスとは平均賃金のことをいいます。

ただし、30歳未満の会社員でも、「むちうちによる後遺障害14級9号」の事案では、労働能力喪失期間が5年間程度とされることが多いです。そのため、全ての年代の平均を取った賃金センサスを用いるのは適切ではなく、原則に戻って、事故の前の年収を基礎収入とすることになります。

 

主婦・主夫の場合

主婦(主夫)は、家事をすることで、配偶者から給料をもらえるわけではありません。

しかし、主婦(主夫)の家事のおかげでその配偶者は自ら家事をせずに仕事に専念することができます。

つまり、主婦(主夫)は、配偶者の収入に家事を通して貢献しているといえます。

そのため、主婦(主夫)も逸失利益の補償の対象となります。

配偶者の収入に家事をとおして寄与しているといえるためです。

もっとも、主婦(主夫)と一口に言っても、専業主婦(主夫)、兼業主婦(主夫)や高齢の主婦(主夫)などで状況が異なります。

以下、それぞれにわけて解説します。

専業主婦(主夫)の逸失利益の場合ボタン
主婦(主夫)の場合には、賃金センサスを用いて基礎収入を決定します。具体的には賃金センサスのうち、女性の学歴計、年齢計の年収額を用います。賃金センサスは毎年金額が変動しますが、2022年の額は394万3500円となっています。

そのため、専業主婦・主夫の場合には、原則としてこの金額が基礎収入になり、2022年以前の交通事故については、その年の賃金センサスの額を基礎収入にします。

兼業主婦(主夫)の逸失利益の場合ボタン
同じ主婦(主夫)でも、兼業主婦・主夫の場合には、家事労働だけでなく、他に仕事もして給料を得ているということになります。

この場合の逸失利益の基礎収入は、賃金センサスの額と仕事で得ている収入を比べて、どちらが高いかによって決定します。

60歳以上の高齢の主婦(主夫)の逸失利益の場合ボタン
主婦・主夫の中でも60歳以上の高齢の主婦・主夫の場合、賃金センサスのうち、女性、学歴計、60歳から64歳の年収額を用いることが実務上多くなります。

2022年の額は343万6000円と全年齢の金額よりも50万円ほど安い金額になりますが、この金額を基礎収入として、逸失利益を計算します。

家事がメインの場合の逸失利益の場合ボタン
パート社員のように配偶者の扶養の範囲内で働いている程度で、あくまで家事がメインという場合には、年収は130万円程度になります。

しかし、専業主婦(主夫)と同じく賃金センサスの額(394万3500円)を基礎収入とします。

正社員として働く場合の逸失利益の場合ボタン
家事もしながら正社員として働き、賃金センサスの年収を超える年収がある場合には、主婦(主夫)としての基礎収入ではなく、その年収を基礎収入とする傾向です。

 

自営業の場合

自営業の場合には、確定申告をしている場合としていない場合によって、どのように基礎収入を計算するかが変わってきます。

また、確定申告をしている場合でも、年によって大きく売上や経費が異なることが多いため、基礎収入を判断するのが難しいです。

自営業の被害者が確定申告をしている場合ボタン
交通事故の被害者が自営業を営んでいて確定申告をしている場合、原則として、最新の確定申告の所得額を基礎収入とします。2023年の交通事故であれば、2022年についての確定申告になります。

確定申告は翌年の3月までに行いますので、2023年3月までに申告した確定申告書が証明資料ということになります。

注意点

ここでの注意点は、実際に手元に入ってきた金額のすべて(売上)ではなく、売上から必要経費を引いた額(所得)を基礎収入とするということです。

これは、必要経費はビジネスを展開するために必要なお金であり、経費を差し引いたお金が家計で自由に使うことができるお金になるからです。

ただし、所得を算出するに当たって、青色申告控除や専従者控除など、税金上の優遇措置を利用していると認められる部分については、所得額に加算して基礎収入を算定します。

会社員が税引き前の手取り額でなく、総収入を基礎収入とすることと同じく、税金の部分は被害者に有利に取扱いをします。

具体例 売上が1000万円、経費が500万円、青色申告控除が65万円、専従者控除が96万円だった場合

確定申告上の所得額は339万円になりますが、基礎収入は65万円と96万円を加算した500万円になります。

339万円 + 65万円 + 96万円 = 500万円

自営業の被害者が確定申告をしていない場合ボタン
確定申告をそもそもしていないという自営業の方の場合には、どれだけの収入を得ているかを具体的に証明することで基礎収入を算定していくことになります。

その証拠としては、請求書や領収書、通帳の取引履歴などが考えられます。

つまり、通帳に取引先からの入金があれば、それが売上となり、そこから仕事の関係で支出をしているものが経費として取り扱われ、所得額を導き出すという方法です。

現金決済で証拠がほとんど残っていないような場合
しかしながら、自営業でも業種によっては、現金決済で証拠がほとんど残っていないような場合もあります。
この場合、なかなか現実の収入を証明することが困難になるため、基礎収入の算定では被害者に不利になってしまう傾向があります。
賃金センサスを参考にする場合ボタン
自営業の場合には、主婦・主夫などと同じく、統計資料である賃金センサスを用いて、基礎収入を算定するという方法もあります。ただし、主婦と違って、どの切り口で割り出される賃金センサスの額を基礎収入とするかについては、具体的な事案に応じて変わってきます。

被害者の年齢や仕事の業種、当該業種の一般的な利益率などを考慮して、どの賃金センサスの額をベースとしていくかを決定していきます。

そのため、自営業の場合、基礎収入について、加害者側から金額の妥当性を争われやすいです。

実務上、裁判では「賃金センサスの60%程度」というように割合で基礎収入を算定されることもあるため、会社員の場合に比べて、基礎収入は流動的だといえます。

 

無職の場合

交通事故の時点で無職だった場合、交通事故の直前に収入がなかったということになりますので、逸失利益は0となる可能性があります。

ただし、たまたま転職活動中であったという場合や内定があったものの交通事故で内定がなくなってしまったといったケースでは、今後近いうちに就労する可能性が高いと判断できます。

このように無職の場合であっても、就労する可能性が高いといえる場合には、賃金センサスを用いて、基礎収入を算定することができます。

したがって、事故にあうまでの職歴やその収入、ハローワークでの登録証や就職活動をしていることを裏付ける資料(採用試験を受けている会社からの手紙やメール)といったものが証拠として必要になってきます。

 

高齢者の場合

主婦以外の高齢者の場合も無職の人と同様に就労する可能性があるといえる場合には、賃金センサスを基礎収入として逸失利益を算出することがあります。

年金で生計を立てている高齢者については、後遺障害が認定されたかどうかで年金額が減るということはありませんので、逸失利益は原則として生じないということになります。

但し、死亡事故の場合には、年金も基礎収入とすることができます。

なお、自賠責保険の取扱いでは、高齢者で無職の場合でも一定額の逸失利益を認めるケースもあります。

 

学生の場合

交通事故の時点で、学生だった場合には、まだ本格的に仕事をしているわけではないため、賃金センサスを用いて基礎収入を算定します。

具体的には、男女別、学歴計、年齢計の金額を使用します。

男性の2022年の額は554万9100円、女性の額は394万3500円で、男女合計の金額は496万5700円となっています。

したがって、学生の場合にはこれらの金額を基礎収入として、逸失利益を計算します。

ただし、会社員のところで説明したとおり、むちうちによる後遺障害14級9号の事案の場合には、労働能力喪失期間が5年間程度とされることが多いため、年齢の合計ではなく、年齢別の金額を基礎収入とすることもあります。

例えば、2022年の20歳から24歳の賃金センサス(学生に適用される可能性が高い)は、男性で340万1800円、女性で313万1200円となっています。

最新の賃金センサスについては、こちらからご確認ください。

 

外国人の場合

永住資格あるいは、在留資格の更新が確実に認められる場合には、通常の日本国籍者と同様の考え方で算定します。

不法滞在や在留資格の更新が確実でない被害者の場合は、事故後一定期間経過後は、日本国外で就労するものとしてそこで得られるであろう収入水準を推定して基礎収入とすることになります。

 

逸失利益の早見表〜労働能力喪失率〜

次に労働能力喪失率についてみていきます。

労働能力喪失率とは、その後遺障害がどの程度、本来の能力を失わせることになるかというもので、パーセントで表されます。

交通事故にあう前の状態を100%とした場合に、どの程度パフォーマンスが落ちるのかというのが労働能力喪失率ということになります。

これについては、認定された後遺障害の等級に応じて、一応の喪失率の目安が決まっています。

労働能力喪失率の早見表 】

後遺障害等級 労働能力喪失率
1級 100%
2級 100%
3級 100%
4級 92%
5級 79%
6級 67%
7級 56%
8級 45%
9級 35%
10級 27%
11級 20%
12級 14%
13級 9%
14級 5%

参照:別表Ⅰ 労働能力喪失率表|労働省労働基準局長通達(昭和32年7月2日基発第551号)

例えば、むちうちの後遺障害である14級9号の「局部に神経症状を残すもの」は、労働能力喪失率5%とされているため、基礎収入に0.05をかけることになります。

また、関節の機能障害が設けられている12級、10級、8級では、それぞれ労働能力喪失率は14%、27%、45%となっています。

等級が高くなるにしたがって、労働能力喪失率も大きくなっており、3級以上は100%と設定されています。

このように、後遺障害が認定されると認定された等級にあらかじめ設定されている労働能力喪失率が基準となるのが原則ですが、例外的に保険会社と労働能力喪失率を巡って争いになることもあります。

基本的には、上記の表の労働能力喪失率を前提に後遺障害の逸失利益を計算するのですが、後遺障害の種類や職種によっては、必ずしも表のとおりとはいかない場合がありますので、例外のものについて説明します。

醜状障害の場合ボタン
醜状障害といって、傷跡の後遺障害というものが交通事故の後遺障害の中にはあります。

具体的には、7級12号「外貌に著しい醜状を残すもの」、9級17号「外貌に相当程度の醜状を残すもの」、12級14号の「外貌に醜状を残すもの」や14級4号の「上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」、14級5号の「下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」といった後遺障害です。

こうした傷跡の後遺障害については、脳や身体の活動には影響しないため、傷跡が仕事や家事にどのように影響するかどうかがあいまいです。

特に、家事については、家の中の仕事であり、傷跡が影響すると一般的には考えにくいという側面もあります。

そのため、傷跡の後遺障害の場合には、先ほどの設定されている喪失率ほど影響はないのではないかと加害者側(その保険会社)が争ってくることが多くあります。

この場合には、傷跡が今後の仕事や生活にどのような影響があるかということを被害者の側で具体的に証明していく必要があります。

腰椎の圧迫骨折の場合ボタン
交通事故によって、せき柱の骨である腰椎の圧迫骨折のけがを負うことがあります。

こうした圧迫骨折については、11級7号の「脊柱に変形を残すもの」という等級が認定されることになります。

その上の等級としては、6級5号や8級相当のものが用意されています。

11級の後遺障害の労働能力喪失率は20%となっていますが、こうした圧迫骨折による後遺障害についても、醜状障害と同じように、脊柱の骨が骨折して変形したからといって、20%もパフォーマンスが低下することはないのではないかとして保険会社からその喪失率を争われることがあります。

実際の裁判でも、痛みの後遺障害である12級13号の喪失率である14%に限って、逸失利益を認めるという裁判例が比較的多くあります。

このように、圧迫骨折については労働能力喪失率を比較的争われやすい後遺障害にあたります。

鎖骨骨折後の変形障害の場合ボタン
腰椎の圧迫骨折と同じく、変形障害の一つである鎖骨骨折後の変形障害が認定された場合も労働能力喪失率が争われやすいです。

すなわち、鎖骨骨折については、12級5号の「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」という後遺障害が用意されていますが、この後遺障害が認定された場合に、鎖骨の形が変わったからといって、仕事には影響がないのではないかと保険会社が主張してくることがあります。

以上のとおり、認定された後遺障害の内容によっては、あらかじめ目安とされている労働能力喪失率よりも低いパーセントを主張されたり、実際に低いパーセントで逸失利益を計算したりすることがあります。

他方で、被害者の人が具体的に行っている仕事によっては、目安とされている労働能力喪失率よりも高くなることもあります。

専門職と呼ばれる職業に従事している場合ボタン
例えば、手のしびれが14級9号の神経障害に該当する場合に、プロのピアニストやバイオリニストなど、もっぱら手を使う職業の場合、設定されている5%の喪失率では評価しきれないということもありえます。

この場合には、例外的に10%にするということもありますが、労働能力喪失率を認定された等級よりも上げるためには、きちんと根拠を示す必要がありますし、裁判をしなければ解決しないというケースも比較的多くなってきます。

労働能力喪失率が通常よりも高くなるのは、先ほどのプロの音楽家といったように、いわゆる専門職と呼ばれる職業に従事している場合です。

 

 

逸失利益の早見表〜ライプニッツ係数

ライプニッツ係数とは

ライプニッツ係数とは、中間利息控除を行うための係数です。

逸失利益は、将来の収入の減少分を示談の段階で一括して先に受け取るものです。

もし、この受け取ったお金を運用した場合、通常は利息がつきます。

そこで、公平の観点から、この将来の利息による増額分は控除すべきと考えられています。

この利息の控除のことを、中間利息といいます。

現在、中間利息は年利3%※として計算されていますが、中間利息を控除する計算はとても複雑です。
※令和2年3月までは5%

そこで、ライプニッツ係数という簡易化された数字を使います。

ライプニッツ係数は、下表のように労働能力喪失期間に応じて決められています。

中間利息控除イメージ

例えば、上記の場合下記の計算式で簡単に逸失利益を算定できます。

200万円 × 8.5302(労働能力喪失率10年のライプニッツ係数)≒ 1706万円

 

ライプニッツ係数の早見表

令和2年4月1日以降に発生した交通事故の損害賠償請求に適用する表
ライプニッツ係数表(法定利率3%)
労働能力
喪失期間
(年)
係 数 労働能力
喪失期間
(年)
係 数
1 0.9709 44 24.2543
2 1.9135 45 24.5187
3 2.8286 46 24.7754
4 3.7171 47 25.0247
5 4.5797 48 25.2667
6 5.4172 49 25.5017
7 6.2303 50 25.7298
8 7.0197 51 25.9512
9 7.7861 52 26.1662
10 8.5302 53 26.3750
11 9.2526 54 26.5777
12 9.9540 55 26.7744
13 10.6350 56 26.9655
14 11.2961 57 27.1509
15 11.9379 58 27.3310
16 12.5611 59 27.5058
17 13.1661 60 27.6756
18 13.7535 61 27.8404
19 14.3238 62 28.0003
20 14.8775 63 28.1557
21 15.4150 64 28.3065
22 15.9369 65 28.4529
23 16.4436 66 28.5950
24 16.9355 67 28.7330
25 17.4131 68 28.8670
26 17.8768 69 28.9971
27 18.3270 70 29.1234
28 18.7641 71 29.2460
29 19.1885 72 29.3651
30 19.6004 73 29.4807
31 20.0004 74 29.5929
32 20.3888 75 29.7018
33 20.7658 76 29.8076
34 21.1318 77 29.9103
35 21.4872 78 30.0100
36 21.8323 79 30.1068
37 22.1672 80 30.2008
38 22.4925 81 30.2920
39 22.8082 82 30.3806
40 23.1148 83 30.4666
41 23.4124 84 30.5501
42 23.7014 85 30.6312
43 23.9819 86 30.7099

令和2年3月31日以前に発生した交通事故の場合には、以下の係数表を使用して計算します。

▼こちらをクリック

令和2年3月31日以前に発生した交通事故の損害賠償請求に適用する表
ライプニッツ係数表(法定利率5%)ボタン
労働能力
喪失期間
(年)
係 数 労働能力
喪失期間
(年)
係 数
1 0.9524 44 17.6628
2 1.8594 45 17.7741
3 2.7232 46 17.8801
4 3.5460 47 17.9810
5 4.3295 48 18.0772
6 5.0757 49 18.1687
7 5.7864 50 18.2559
8 6.4632 51 18.3390
9 7.1078 52 18.4181
10 7.7217 53 18.4934
11 8.3064 54 18.5651
12 8.8633 55 18.6335
13 9.3936 56 18.6985
14 9.8986 57 18.7605
15 10.3797 58 18.8195
16 10.8378 59 18.8758
17 11.2741 60 18.9293
18 11.6896 61 18.9803
19 12.0853 62 19.0288
20 12.4622 63 19.0751
21 12.8212 64 19.1191
22 13.1630 65 19.1611
23 13.4886 66 19.2010
24 13.7986 67 19.2391
25 14.0939 68 19.2753
26 14.3752 69 19.3098
27 14.6430 70 19.3427
28 14.8981 71 19.3740
29 15.1411 72 19.4038
30 15.3725 73 19.4322
31 15.5928 74 19.4592
32 15.8027 75 19.4850
33 16.0025 76 19.5095
34 16.1929 77 19.5329
35 16.3742 78 19.5551
36 16.5469 79 19.5763
37 16.7113 80 19.5965
38 16.8679 81 19.6157
39 17.0170 82 19.6340
40 17.1591 83 19.6514
41 17.2944 84 19.6680
42 17.4232 85 19.6838
43 17.5459 86 19.6989

 

子供(未成年)の場合

18歳未満の未成年者の場合には、症状固定の時点ですぐに働きはじめるわけではありません。

そのため、上記のライプニッツ係数をそのまま当てはめると、適正な金額とならなくなってしまいます。

例えば、10歳の小学生が後遺障害の認定を受けた場合、就労可能年数の67歳から年齢10歳を差し引くと、57年間となります。

しかし、10歳の小学生は基本的に働きません。

にもかかわらず、10歳から67歳までの57年間の労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を適用するのは不合理です。

そこで、このような場合は、67歳に達するまでの係数から、18歳に達するまでの係数を差し引きます。

 67歳に達するまでのライプニッツ係数 − 18歳に達するまでのライプニッツ係数

具体例

10歳の場合

27.1509(57年に対応する係数)− 7.0197(8年に対応する係数)= 20.131

上記のように、10歳の子供の場合は、ライプニッツ係数が20.131となります。

未成年者の場合に、毎回、上記のような計算をするのは面倒です。

下表は、被害者が18歳未満の場合に適用するライプニッツ係数の早見表となりますので、ご参考にされてください。

18歳未満の場合に適用するライプニッツ係数表
年齢 労働能力
喪失期間
(年)
係 数
0 49 14.980
1 49 15.429
2 49 15.892
3 49 16.369
4 49 16.860
5 49 17.365
6 49 17.886
7 49 18.423
8 49 18.976
9 49 19.545
10 49 20.131
11 49 20.735
12 49 21.357
13 49 21.998
14 49 22.658
15 49 23.338
16 49 24.038
17 49 24.759

引用:別表Ⅱ-1就労可能年数とライプニッツ係数表|国土交通省

仮に、未成年者であっても、仕事をしていたり、家事に従事していたりする場合は、別表Ⅱ-1就労可能年数とライプニッツ係数表の「有職者・家事従事者」の係数になりますが、例外的な場合になるでしょう。

 

労働能力喪失期間とは

労働能力喪失期間とは、事故によって残存した後遺障害による労働能力の低下が影響する期間のことです。

基本的には、症状固定日を始期として、就労可能年数の67歳までの期間を労働能力喪失期間とします。

25歳で症状固定となった場合、67 – 25 = 42年間が労働能力喪失期間となります。

また、40歳で症状固定となった場合には、67 – 40 = 27年間が労働能力喪失期間となります。

この原則の例外としては、以下の場合があります。

原則の例外

高齢者の場合

被害者がご高齢の場合、下記の例外があるため注意が必要です。

被害者の症状固定時※の年齢が事故当時67歳を超える場合、「平均余命」(後記で解説)の2分の1を労働能力喪失期間とします。

平均余命 ✕ 1/2 = 労働能力喪失期間

※症状固定とは、これ以上治療を行っても症状の改善を期待することができないであろうという時点をいい、医師が判定します。

また、「症状固定から67歳までの年数」と「平均余命の2分の1の年数」を比べて後者の方が長い場合は後者の年数を喪失期間とします

症状固定から67歳までの年数 < 平均余命の2分の1の年数 → 平均余命の2分の1の年数が喪失期間

※死亡事故の場合で、年金を基礎収入とする場合には、2分の1とすることなく、平均余命の年数をそのまま利用して計算します。

平均余命とは?

平均余命は、男性と女性で異なってきますが、賃金センサスと同様に毎年統計が出されています。

平均余命は、簡易生命表という資料に掲載されています。

2022年の簡易生命表は以下のとおりです。

▼簡易生命表はこちらをクリック

平均余命の早見表(2022年簡易生命表)ボタン
年齢 平均余命 年齢 平均余命
0週 81.05 50 32.51
1 81.09 51 31.59
2 81.07 52 30.67
3 81.06 53 29.76
4 81.04 54 28.86
2月 80.97 55 27.97
3 80.90 56 27.08
6 80.68 57 26.19
0年 81.05 58 25.32
1 80.20 59 24.45
2 79.22 60 23.59
3 78.23 61 22.74
4 77.24 62 21.90
5 76.25 63 21.07
6 75.26 64 20.25
7 74.26 65 19.44
8 73.27 66 18.64
9 72.27 67 17.85
10 71.28 68 17.07
11 70.28 69 16.31
12 69.28 70 15.56
13 68.29 71 14.82
14 67.30 72 14.11
15 66.31 73 13.40
16 65.32 74 12.72
17 64.33 75 12.04
18 63.35 76 11.38
19 62.37 77 10.73
20 61.39 78 10.10
21 60.42 79 9.48
22 59.45 80 8.89
23 58.48 81 8.31
24 57.50 82 7.75
25 56.53 83 7.21
26 55.56 84 6.69
27 54.58 85 6.20
28 53.61 86 5.73
29 52.63 87 5.29
30 51.66 88 4.88
31 50.69 89 4.50
32 49.71 90 4.14
33 48.74 91 3.80
34 47.77 92 3.49
35 46.80 93 3.20
36 45.83 94 2.93
37 44.86 95 2.68
38 43.90 96 2.45
39 42.93 97 2.23
40 41.97 98 2.03
41 41.01 99 1.85
42 40.06 100 1.69
43 39.10 101 1.53
44 38.15 102 1.39
45 37.20 103 1.26
46 36.25 104 1.15
47 35.31 105~ 1.04
48 34.37
49 33.44
年齢 平均余命 年齢 平均余命
0週 87.09 50 38.16
1 87.12 51 37.21
2 87.10 52 36.27
3 87.09 53 35.33
4 87.07 54 34.39
2月 87.00 55 33.46
3 86.93 56 32.53
6 86.70 57 31.60
0年 87.09 58 30.68
1 86.23 59 29.76
2 85.25 60 28.84
3 84.26 61 27.92
4 83.27 62 27.01
5 82.28 63 26.10
6 81.28 64 25.20
7 80.29 65 24.30
8 79.29 66 23.41
9 78.30 67 22.52
10 77.30 68 21.64
11 76.30 69 20.76
12 75.31 70 19.89
13 74.31 71 19.03
14 73.32 72 18.17
15 72.33 73 17.33
16 71.34 74 16.49
17 70.35 75 15.67
18 69.36 76 14.86
19 68.38 77 14.06
20 67.39 78 13.27
21 66.41 79 12.49
22 65.43 80 11.74
23 64.44 81 11.00
24 63.46 82 10.29
25 62.48 83 9.59
26 61.49 84 8.92
27 60.51 85 8.28
28 59.53 86 7.66
29 58.54 87 7.07
30 57.56 88 6.51
31 56.58 89 5.97
32 55.60 90 5.47
33 54.61 91 5.00
34 53.63 92 4.56
35 52.65 93 4.14
36 51.68 94 3.76
37 50.70 95 3.41
38 49.72 96 3.10
39 48.75 97 2.83
40 47.77 98 2.58
41 46.80 99 2.36
42 45.83 100 2.16
43 44.86 101 1.98
44 43.90 102 1.82
45 42.93 103 1.67
46 41.97 104 1.54
47 41.01 105~ 1.41
48 40.06
49 39.11

参照:2022年簡易生命表の概況|厚生労働省

【具体例】

以下、具体例で解説します。

具体例1 被害者(男性)の症状固定時の年齢が70歳の場合

被害者の症状固定時の年齢が67歳を超えているため、平均余命の2分の1が労働能力喪失期間となります。

70歳の平均余命を上の表(男)から読み取ると「15.56」年

計算式 15.56年 × 1/2 = 7.78年

したがって、8年を喪失期間とします。

※平均余命の端数をどのように処理するかは争いがあります。ここでは小数点以下を四捨五入で計算しています。

具体例2 被害者(男性)の年齢(症状固定時)が50歳の場合

「症状固定から67歳までの年数」と「平均余命の2分の1の年数」を比べます。

症状固定から67歳までの年数 → 17年

計算式67歳 – 50歳 = 17年


平均余命の2分の1の年数 → 16年

計算式32.51(上の表の男の50歳を参照)× 1/2 = 16.255年


したがって、17年を喪失期間とします。

 

大学生の場合

大学生や大学院生の場合は、成人していても就労していないケースがほとんどです。

このような場合、年齢を形式的に当てはめて労働能力喪失期間を算出することは不合理です。

例えば、20歳で大学2年生の場合、就労可能年数の67歳から年齢20歳を差し引くと、47年間となります。

しかし、大学卒業まで就労しない場合、47年間に対応する係数を適用するのは適正とは言えません。

そこで、このような場合は、就労予定の22歳から67歳までを労働能力喪失期間と考えます。

したがって、67歳 − 22歳 = 45年が労働能力喪失期間となります。

 

むちうちをはじめとする神経症状の場合

むちうちをはじめとする神経症状の場合には、67歳までずっと痛みによる労働能力の喪失が続くとは考えにくいとして、例外的な取扱いがされることがほとんどです。

具体的には、14級9号の「局部に神経症状を残すもの」については、5年程度12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」については、10年程度を労働能力喪失期間とすることが多いのが現状です。

 

 

逸失利益の計算の具体例

以上の説明を踏まえて、具体的に逸失利益の計算を行ってみましょう。

会社員の方

【前提】

  • 基礎収入:400万円
  • 後遺障害等級:1級(労働能力喪失率100%)
  • 症状固定時の年齢:40歳

【計算方法】

①まず、労働能力喪失期間からライプニッツ係数を算出します。

労働能力喪失期間の計算:67歳 – 40歳 = 27年

ライプニッツ係数:上記の早見表で労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を見る→ライプニッツ係数18.327

②逸失利益を下記の公式に当てはめて計算します。

逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

逸失利益 = 400万円 × 100% × 18.327 = 7330万8000円

以上から、逸失利益は7330万8000円となります。

 

主婦・主夫の方:収入ゼロ、又はパートタイマーなどの場合

【前提】

  • 基礎収入:394万3500円※
    ※上で解説したように、主婦の場合、賃金センサス(女性の学歴計、年齢計の年収額)を用います。
  • 後遺障害等級:9級(労働能力喪失率35%)
  • 症状固定時の年齢:50歳

【計算方法】

①まず、労働能力喪失期間からライプニッツ係数を算出します。

労働能力喪失期間の計算:67歳 – 50歳 = 17年

ライプニッツ係数:上記の早見表で労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を見る→ライプニッツ係数13.1661

②逸失利益を下記の公式に当てはめて計算します。

逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

逸失利益 = 394万3500円 × 35% × 13.1661 = 1817万2180円

以上から、逸失利益は1817万2180円となります。

 

自営業の方

【前提】

  • 基礎収入:500万円※
    ※上で解説したように、主婦の場合、賃金センサス(女性の学歴計、年齢計の年収額)を用います。
  • 後遺障害等級:6級(労働能力喪失率67%)
  • 症状固定時の年齢:35歳

【計算方法】

①まず、労働能力喪失期間からライプニッツ係数を算出します。

労働能力喪失期間の計算:67歳 – 35歳 = 32年

ライプニッツ係数:上記の早見表で労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を見る→ライプニッツ係数20.3888

②逸失利益を下記の公式に当てはめて計算します。

逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

逸失利益 = 500万円 × 67% × 20.3888 = 6830万2480円

以上から、逸失利益は6830万2480円となります。

 

無職の方

【前提】

  • 基礎収入:394万3500円※
    ※上で解説したように、無職の場合でも就労する可能性が高い場合は賃金センサスを用います。
  • 後遺障害等級:8級(労働能力喪失率45%)
  • 症状固定時の年齢:30歳

【計算方法】

①まず、労働能力喪失期間からライプニッツ係数を算出します。

労働能力喪失期間の計算:67歳 – 30歳 = 37年

ライプニッツ係数:上記の早見表で労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を見る→ライプニッツ係数22.1672

②逸失利益を下記の公式に当てはめて計算します。

逸失利益=基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

逸失利益 = 394万3500円 × 45% × 22.1672 = 3933万7358円

以上から、逸失利益は3933万7358円となります。

 

高齢者の方

【前提】

  • 基礎収入:332万7900円※
    ※ご高齢の場合でも就労する可能性が高い場合は賃金センサスを用います。
  • 後遺障害等級:7級(労働能力喪失率56%)
  • 症状固定時の年齢:70歳

【計算方法】

①まず、労働能力喪失期間からライプニッツ係数を算出します。

被害者の症状固定時の年齢が67歳を超えているため、平均余命の2分の1が労働能力喪失期間となります。

70歳の平均余命を上の表(男)から読み取ると「15.56」年

計算式 15.56年 × 1/2 = 7.78年

したがって、8年を喪失期間とします。

ライプニッツ係数:上記の早見表で労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を見る→ライプニッツ係数7.0197

②逸失利益を下記の公式に当てはめて計算します。

逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

逸失利益 = 332万7900円 × 56% × 7.0197 = 1308万2081円

以上から、逸失利益は1308万2081円となります。

 

学生の方

【前提】

  • 基礎収入:496万5700円※
    ※上で解説したように、学生の場合賃金センサスを用います。
  • 後遺障害等級:9級(労働能力喪失率35%)
  • 症状固定時の年齢:10歳

【計算方法】

①まず、労働能力喪失期間からライプニッツ係数を算出します。

子供の場合、67歳に達するまでの係数から、18歳に達するまでの係数を差し引きます。

27.1509(57年に対応する係数)− 7.0197(8年に対応する係数)= 20.131

②逸失利益を下記の公式に当てはめて計算します。

逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

逸失利益 = 496万5700円 × 35% ×  20.131 = 3498万7577円

以上から、逸失利益は3498万7577円となります。

 

 

逸失利益の自動計算機

このページでは逸失利益の正しい計算方法を詳しく解説しています。

しかし、いくら請求できそうかを早く知りたいという方もいらっしゃるかと思います。

ご自身の逸失利益等の賠償金の概算額を知りたいという方は、こちらのページをご覧ください。

 

 

3つの基準

上記のとおり、後遺障害の逸失利益には次の計算式があります。

計算式

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数

しかし、被害者の方のご状況によって、どのように「基礎収入」や「労働能力喪失率」を算出するかという問題があります。

この点について、3つの基準があります。

賠償金の3つの基準①裁判基準(弁護士基準)

②任意保険基準

③自賠責基準

この3つの基準を理解しておくことは、適正な逸失利益を請求する上で重要となるため、以下、くわしく解説します。

①裁判基準の場合

裁判基準は、仮に裁判となった場合に認められるであろうという水準を言います。

公平な第三者である裁判所が判断する水準ですので、合理的な額となり、被害者の納得感も得られる場合が多いかと考えます。

上述した解説は、この裁判基準に基づくものです。

 

②任意保険基準の場合

任意保険基準は、その名のとおり、任意保険会社が内部的に定めている賠償の水準です。

各保険会社が、被害者に対して賠償の提示を行う際に使用している水準で、外部に明確には公表はされていません。

被害者に対して、書面で賠償の提示が出された場合に、「弊社基準」などの記載がされることがありますが、それが任意保険会社の基準ということになります。

明確な賠償基準は、各社によって異なる部分はありますが、裁判基準よりは低い賠償水準になることがあります。

例えば、逸失利益の算定において、保険会社からは以下のような主張がなされる場合があります。

  • 労働能力喪失期間について、相場よりも短い期間を主張する
  • 実収入が多い人の場合に、後述の自賠責基準と同様の上限を設定する

保険会社が裁判基準を下回る提示を行うのは、逸失利益の場合だけではありません。

その他、慰謝料、休業損害なども裁判基準を下回る提示がなされる傾向です。

したがって、保険会社の提示については、適正額か否か注意する必要があります

 

③自賠責基準の場合

自賠責基準とは、交通事故の場合に自賠責保険が賠償金を計算する場合の基準をいいます。

加害者である運転手が無保険で、かつ、支払い能力がない場合、被害者は全く補償を受けることができなくなります。

そこで、被害者が最低限の補償を受けることができるよう自賠責保険という制度があります。

すなわち、自賠責保険は、強制加入の保険であり、加入せずに運転すると刑事罰が科されます。

そのため、自動車を運転するほとんどの方が自賠責保険には加入しています。

また、万一、加害者が自賠責に加入していない場合でも、被害者は政府の保障事業に請求することができます。

そのため、交通事故の被害者は、相手が無保険でも最低限の補償を受けることが可能です。

逸失利益についての自賠責基準は、次の2点の特徴があります。

  • 有職者の場合は基礎収入について固定値(決まった額)が定めてあるので、実収入がこれよりも低い場合、固定値の方を基準にできる
  • 支払の上限額がある

通常、自賠責基準は最低限の補償のため、最も賠償額が低くなる傾向にあります。

しかし、逸失利益については、上記の特徴があるため、収入が少ない方の場合、裁判基準よりも高くなる可能性もあります。

したがって、裁判基準の場合と比較して、有利な方を選択する場合もあります。

 

3基準のメリットとデメリット

3つの基準の一般的な傾向について、メリットとデメリットをまとめると下表のとおりとなります。

基準 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準
特徴 自賠責保険が賠償金を計算する場合の基準 任意保険会社が内部的に定めている賠償の水準 裁判所が用いる賠償の水準
メリット
  • 加害者が任意保険に加入していない場合にも請求可能
  • 所得が少ない場合は有利になる可能性がある
被害者が応じれば早期に解決できる
  • 裁判所が認める賠償金であり納得感がある
  • 最も高額となる傾向
デメリット 基本は最低補償であり、支払われる金額は最も低くなる可能性がある
  • 適正な賠償額よりも低額な傾向
  • 被害者として納得感がない
保険会社が応じない場合は裁判となるため長年月を要する

検討

上記のとおり、3つの基準にはメリットとデメリットがあります。

基本的には、まずは最も高額な賠償金を得ることができる可能性がある裁判基準を請求すべきでしょう。

例外として、自賠責基準の方が有利な場合は当該基準で請求します。

被害者側の請求に対して、保険会社が支払に応じない場合は、裁判となって長期化する可能性もあります。

しかし、まずは請求してみて、保険会社の対応を見るという方法もあります。

専門の弁護士が交渉しても、保険会社が納得できる賠償金を提示しない場合は裁判を起こすか、それとも、譲歩して早期解決するか、その際に判断してもよいでしょう。

 

 

死亡の逸失利益の計算方法

死亡した場合、将来得ることができたはずの収入を得られなくなるため、その分の補償として死亡逸失利益を請求することができます

以下、死亡逸失利益の計算方法を説明します。

死亡逸失利益の計算式は以下のとおりです。

死亡逸失利益の計算式

基礎収入 × (1 – 生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数 

 

基礎収入

基礎収入の考え方は、後遺障害の逸失利益と同じですので、上記の説明をご参照ください。

 

生活費控除率

被害者が死亡した場合、被害者の収入はなくなりますが、他方で被害者が生存していれば必要になる生活費は発生しなくなります。

したがって、死亡逸失利益の算定にあたっては、この生活費を控除して計算することになります。

生活費分をどの程度控除するかは、被害者の立場によって変わってきます。

家族関係、性別、年齢に照らして下表の割合が目安とされています。

被害者の立場 生活費控除率
一家の支柱 被扶養者が1名 40%
被扶養者が2名以上 30%
女性(主婦、独身、幼児等含む) 30%
男性(独身、幼児等含む) 50%
年金受給者 通常よりも高い割合(50~70%)

※この表は、目安であり、個別具体的事情によって異なる控除率で算定されることもあります。

 

就労可能年数

就労可能年数は、原則として67歳までとなります。

従って、45歳で死亡した場合には、22年が就労可能年数となります。

67歳ー45歳=22年

ただし、ご高齢の方がお亡くなりになった場合は以下の例外があるので注意が必要です。

【ご高齢の場合】

ご高齢の方の死亡事故では、気をつけるべきポイントが3つあります。

ポイント1

「67歳までの年数」が「平均余命の2分の1」よりも短くなる場合には、平均余命の2分の1の年数を就労可能年数として計算します。

67歳までの年数 < 平均余命の2分の1 → 平均余命の2分の1の年数を就労可能年数

例えば、60歳の男性が亡くなった場合で平均余命を24年※とします。

(※平均余命は毎年変わるため、仮の数値となります。平均余命の正確な年数については、上の表をご参照ください。)

この場合、67歳までの年数は7年です。

60歳の平均余命(24年)の2分の1は12年です。

したがって、より期間が長い12年を就労可能年数として計算します。

ポイント2

被害者の年齢が事故当時67歳を超える場合、「平均余命」の2分の1を就労可能年数とします。

平均余命 ✕ 1/2 = 就労可能年数
ポイント3

死亡した方が年金受給者で、年金の逸失利益を計算する場合は、平均余命を2分の1とはしません。

年金は、賃金と異なり、高齢によって受給できなくなるわけではなく、むしろ、高齢となってからはじめて受給できるものであるからです。

また、年金は死亡しなければいつまでも受給することが可能ですし、死亡した場合は相続も認められています。

ワンポイント:年金の中には逸失利益と認められないものある

遺族厚生年金(公正年金受給者の遺族に支給されるもの)など、いくつかの種類の年金については、受給者である高齢者自身の生活維持を目的とするものであること、受給者自身はその保険料を支払っていないことなどを理由として、逸失利益を否定した裁判例もあります(最判H12.11.14)。

参考判例:最高裁判所ホームページ

年金の逸失利益については、判断が難しいため、交通事故にくわしい弁護士にご相談なさってください。

ライプニッツ係数

ライプニッツ係数については、後遺障害の逸失利益の部分と同様ですので、上記の解説をご参照ください。

 

具体的な計算方法

具体例 40歳男性、年収550万円、妻と子の扶養義務がある被害者のケース

この場合、基礎収入は550万円、生活費控除率は30%、就労可能年数は27年となります。

計算式550万円 × (1 – 0.3) × 18.3270 = 7055万8950円

このケースでは、7055万8950円が死亡逸失利益の賠償額となります。

 

 

逸失利益の時効

消滅時効の期間

逸失利益等の賠償金の請求には、時効といって、請求できる期間が存在します。

ケガをした場合の賠償金の消滅時効は、基本的には5年となります。

なお、物損の場合の損害賠償請求は3年です。

【根拠条文】

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

参考:民法|電子政府の窓口

 

時効開始の起算点

時効をカウントする、起算点について、法律上は「損害及び加害者を知った時から」と規定されていますが、逸失利益(逸失利益の慰謝料を含む。)の場合は「症状固定日」が起算日となります

逸失利益以外の傷害慰謝料、治療費等の損害については「事故日」が起算点となります。

死亡事故の場合には、死亡した時点が起算日となります。

 

 

逸失利益の請求の流れ〜事故発生から支払まで〜

逸失利益を含めた賠償金は、通常、事故発生から以下の流れで支払われることとなります。

なお、上述したとおり、人身事故で生じる損害は逸失利益だけにとどまりません。

その他の治療費、車の修理費、休業損害、慰謝料などのもろもろの賠償金と合わせて請求し、交渉していく必要があります。

 

 

逸失利益がもらえない原因

逸失利益が認められず、賠償金を支払ってもらえないのはどのような場合でしょうか。

逸失利益は、上で解説したように、「基礎収入」「 労働能力喪失率」「喪失期間に対応するライプニッツ係数」という3つの要素で決まります。

したがって、逸失利益が認められないのは、基本的には以下のいずれかの原因があると考えられます。

  1. ① 収入がまったく減少していない
  2. ② 後遺障害等級が認められなかった
  3. ③ 労働能力喪失が認められなかった

また、上記のとおり、消滅時効にかかった場合も相手(保険会社)から時効を主張されると、賠償金を支払ってもらうことができません。

いずれにせよ、逸失利益が認められるか否かについては専門的な判断が必要となるため、交通事故に強い弁護士に相談なさることをお勧めいたします。

適切な逸失利益を支払ってもらうための4つのポイント

①後遺障害の等級認定が重要

上述のとおり、逸失利益の計算式は決まっています。

労働能力喪失率は、後遺障害の等級によって大きく異なります。

例えば、14級の場合が5パーセントであるのに対して、13級の場合は9パーセントとなり、その差は歴然としています。

したがって、後遺障害において、何級に認定されるかはとても重要です。

後遺障害の申請をする際に提出する書類の多くは治療期間中に作成されるものですから、治療期間中においても後遺障害の申請を意識した対応が大切になってきます。

 

②保険会社の提示が適正額ではないこと

上述のとおり、逸失利益には、任意保険基準があり、これは裁判基準よりも低額となる可能性があります。

裁判基準に基づく賠償金は、仮に裁判となった場合に認定される可能性が高い金額です。

すなわち、公平な第三者である裁判所が認める「適切な賠償金」といえます。

これに対して、任意保険の基準は、保険会社が独自に定めた基準に過ぎません。

被害者としては、当然、裁判基準の休業損額を受け取りたいと考えるでしょう。

また、逸失利益以外にも、賠償金(慰謝料など)に関しても、保険会社の提示額が適正額よりも低額な場合があります。

そのため保険会社から提示される金額を鵜呑みにせず、裁判基準を請求することが重要です。

 

③逸失利益の適切な金額を知ること

逸失利益は、基本的には上述した裁判基準の額が適切といえます。

また、交通事故で請求できる賠償金は逸失利益だけではありません。

治療費などの積極損害の他、慰謝料、休業損害なども請求できる可能性があります。

これらの賠償金について、適切な額を知ることが重要です。

被害者の方の中には、早期解決のために、保険会社の提示額に応じるという方もいらっしゃいます。

しかし、前提として「本来もらえるべき金額」がどの程度かを知ることは、意思決定を行うための重要なプロセスです。

一度示談書にサインをすると、後から撤回することはとても難しいため、示談を成立させる前に、適正額を知ることをお勧めいたします。

 

④専門家に相談すること

適切な賠償金の額を知るために、最も重要なことは、信頼できる情報を得ることです。

現在はインターネット上に様々な情報が溢れており、交通事故の賠償金に関する情報も入手できます。

しかし、インターネット上に公開されている記事は、不特定多数の方に向けられたものであり、個別具体的な状況を踏まえたものではありません。

そのため、交通事故被害者にとって、最適な情報とは言い切れません。

したがって、インターネットの情報は参考程度にとどめて、可能であれば専門家に相談することをお勧めいたします。

また、専門性が高い弁護士の場合、賠償金の算定だけでなく、保険会社との交渉のノウハウなど、インターネットに掲載されていない情報を持っている場合があります。

そのような弁護士にご相談されると、問題解決の道筋を教えてくれるでしょう。

 

 

まとめ

以上、逸失利益についての正しい計算方法、請求のポイント等について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。

逸失利益には、裁判基準、任意保険基準、自賠責基準の3つがあり、被害者の方は、裁判基準によって算出した適切な金額を受け取る法的な権利があります。

そのためには、保険会社の提示を鵜呑みにしないようにすることが大切です。

逸失利益やその他の賠償金については、適正額を知るために、できるだけ交通事故の専門家に相談することをお勧めいたします。

専門性が高い弁護士であれば、逸失利益を含めた賠償金全般について、適切な額をアドバイスしてくれるでしょう。

この記事が交通事故に遭われた方にとって、お役に立てば幸いです。

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