後遺障害が認定されたら|賠償金増額や将来の収入への補償も得られる

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

後遺障害に認定された場合、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができるため、賠償額は増額されることになります。

後遺障害が認定されると賠償額が増額される

後遺障害に認定された場合には、後遺障害慰謝料と逸失利益も請求することが出来ます。

賠償できる項目が増えるため、それだけ賠償額は増額されることになります。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害に認定された場合に、その等級に応じて発生する慰謝料のことです。

慰謝料の基準には、①自賠責保険基準、②任意保険基準、③裁判基準の3つの基準があります。

自賠責保険基準とは、自賠責保険が賠償金を計算する場合に用いる基準です。

任意保険会社基準とは、任意保険会社が示談交渉の際に用いる基準です。

裁判基準とは、裁判になった場合に用いられる賠償水準で3つの基準の中で最も高い基準です。

それぞれの基準に基づく後遺障害慰謝料は、下表のとおりです。

なお、任意保険会社の基準は、現状、公開されていないため、過去に全ての保険会社が共通指定使用していた算定基準(旧任意保険基準)を掲載しています。

これを比較したものが下表となります。

【後遺障害慰謝料の3つの基準の比較】
自賠責保険基準 旧任意保険基準 弁護士基準
1級 1150万円(1650万円) 1600万円 2800万円
2級 998万円(1203万円) 1300万円 2370万円
3級 861万円 1100万円 1990万円
4級 737万円 900万円 1670万円
5級 618万円 750万円 1400万円
6級 512万円 600万円 1180万円
7級 419万円 500万円 1000万円
8級 331万円 400万円 830万円
9級 249万円 300万円 690万円
10級 190万円 200万円 550万円
11級 136万円 150万円 420万円
12級 94万円 100万円 290万円
13級 57万円 60万円 180万円
14級 32万円 40万円 110万円

※( )内は「介護を要する後遺障害」の場合の金額です。
※任意保険基準は、上述の旧任意保険基準であり、各保険会社の基準は異なる場合があります。

引用元:自動車損害賠償保障法施行令|電子政府の総合窓口

上記のとおり、裁判基準が最も高い慰謝料額になっています。

弁護士が介入して示談交渉を行う場合には、裁判基準を前提として交渉します。

逸失利益

逸失利益とは、後遺障害が残ったことで働きづらくなり収入が減ってしまうことへの賠償です。

逸失利益は、以下の計算式で計算します。

逸失利益

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入

基礎収入は、被害者の立場に応じて用いる数字が異なってきます。

例えば、会社員であれば、交通事故前年の源泉徴収票に記載のある「支払金額」を基礎収入として計算します。

自営業の場合には、確定申告の所得を基礎収入とします。

主婦のであれば、実際にお金をもらっているわけではないため、賃金センサスという統計資料を用いることになります。

労働能力喪失率

労働能力喪失率は、認定された後遺障害の等級に応じて、喪失率が決まっています。

以下は、等級と喪失率をまとめた表です。

等級 労働能力喪失率 等級 労働能力喪失率
1級 100% 8級 45%
2級 100% 9級 35%
3級 100% 10級 27%
4級 92% 11級 20%
5級 79% 12級 14%
6級 67% 13級 9%
7級 56% 14級 5%

参照:別表Ⅰ 労働能力喪失率表|労働省労働基準局長通達(昭和32年7月2日基発第551号)

「労働能力喪失期間」に対応する「ライプニッツ係数」

「労働能力喪失期間」は、症状固定時の年齢から原則として67歳までの年数が喪失期間になります。

もっとも、むちうちの症状による14級9号の事案では5年間程度、12級13号の事案では10年程度を労働能力喪失期間とされる傾向にあります。

「ライプニッツ係数」とは、中間利息を控除する係数です。

逸失利益は、後遺障害によって減収してしまう将来の損失を、示談の段階で一括して先に受け取るため、中間利息を控除する必要があります。

現在の100万円と5年後に受け取る100万円は利息を考えると全く同じ価値とはいえません。

したがって、ライプニッツ係数を使用して中間利息を控除する必要があるのです。

具体的な計算例

以下の条件を前提に逸失利益を計算します。

具体例 逸失利益計算の具体例

立場:会社員
年齢:43歳
年収:480万円
等級:12級6号(上肢の可動域制限)

480万円 × 14% × 16.9355(24年のライプニッツ係数)= 1138万0656円

今回の前提条件の場合、1138万0656円が逸失利益の賠償額となります。

 

 

後遺障害認定までの流れ

後遺障害認定までの流れ

以下では、交通事故発生から後遺障害の確定までの流れを説明します。

交通事故発生
負傷して痛みがある場合には、必ず病院に行きましょう。
治療の開始
医師の指示に従い、治療を継続しましょう。
症状固定となり後遺障害申請の準備を開始

治療を継続しても症状が一進一退の状態になり、医師が症状固定と判断した場合には、症状固定となり後遺障害申請の準備を開始します。

症状固定に至ると、後遺障害申請の必須書類である後遺障害診断書を医師に作成してもらいます。

後遺障害申請

必要書類の一式をまとめて自賠責保険会社に後遺障害申請を行います。

申請方法は、保険会社が行う事前認定の方法と被害者側でおこなう被害者請求の方法があります。

損害保険料率算出機構の調査事務所による後遺障害の審査
後遺障害申請を受け付けた自賠責保険会社は、損害保険料率算出機構に書類を送付し、損害保険料率算出機構の調査事務所が後遺障害の審査を開始します。
自賠責保険会社から結果の通知
損害保険料率算出機構での調査結果が自賠責保険に通知され、その結果を後遺障害申請の手続きを行った保険会社(保険会社が事前認定の方法で申請した場合)あるいは、被害者本人又は申請した弁護士(被害者請求の方法で申請した場合)に結果が通知されます。
賠償金の支払い
被害者請求で申請した場合、後遺障害の等級が認定されると、自賠責保険基準での賠償金が支払われます。
認定結果に不服がある場合には、異議申し立てを行う
自賠責保険の認定に納得できない場合には、紛争処理機構に申立て、あるいは訴訟提起

紛争処理機構は、自賠責保険会社の認定が適正な認定かを審査します。

適切でないと判断であれば、自賠責の認定は変更されます。

自賠責保険会社の認定に納得できない場合には、訴訟提起して裁判所に後遺障害等級を判断してもらうこともできます。

ただし、自賠責保険会社も相当の根拠をもって判断しているので、自賠責保険がした認定を覆すことは容易なことではありません。

 

 

後遺障害認定から示談までの流れ

弁護士に依頼していない場合

後遺障害等級が決まったら、示談交渉を開始することになります。

弁護士に依頼していない場合には、保険会社から示談の提示が書面で送られてきます。

被害者としては、その書面の中身を確認して保険会社の担当者と示談交渉することになりますが、安易に示談してはいけません。

保険会社から最初に送付されてくる示談の提示が妥当な内容であることは、ほぼないと考えて頂いた方がいいでしょう。

後遺障害の逸失利益の計算は複雑になることもあり、被害者自身で妥当な金額を計算することは容易なことではありませんので、弁護士に提示内容を確認してもらうことをお勧めします。

被害者の方が納得いく金額に至れば、保険会社と書面で解決の合意をして示談完結となります。

弁護士に依頼している場合

弁護士に依頼している場合には、示談交渉は全て弁護士が行います。

弁護士において、後遺障害等級に基づき損害を計算し、相手方保険会社に提示します。

この提示に対して、保険会社が回答する形で示談交渉は進んでいきます。

賠償額が妥当な金額に至れば、被害者の了承のもと、保険会社と書面で解決の合意をして示談完結となります。

 

 

後遺障害認定されたらやるべきこと

認定の妥当性の検討

後遺障害の結果が返ってきた場合には、その認定結果が妥当であるかを検討する必要があります。

事故の規模・態様、治療の期間・経過・内容、症状の一貫性・連続性、神経学的検査の結果、画像所見の有無などの、交通事故に関する一連の事情を総合考慮して、後遺障害の結果の妥当性を判断しています。

例えば、手首を骨折して、その後の治療でも骨はきれいにくっつかず、それが原因で痛みが残っているような場合には、12級13号の可能性があります。

こうした場合に、自賠責保険会社の認定が、14級9号にとどまっているときには、妥当な認定とはいえない可能性があります。

こうしたケースでは、主治医の意見を聞いたり、画像鑑定を行うなどして、異議申し立てを検討することになるでしょう。

示談交渉を行う

弁護士に依頼していない場合

弁護士に依頼していない場合には、後遺障害の結果が出た後に、保険会社から賠償金の提示があります。

その提示内容は十分によく検討する必要があります。

保険会社も営利会社なので、できる限り賠償金は低額に抑えたいという思いがあります。

したがって、最初の保険会社の提示が妥当な金額である可能性は低いと考えられてください。

ほとんどの被害者の方が適切な賠償であるかどうかを判断することはできないと思いますので、専門の弁護士に提示内容を確認してもらうことをお勧めします。

弁護士に依頼している場合

弁護士に依頼している場合には、後遺障害等級の結果に基づいて、弁護士が損害額の計算をおこないます。

交渉も全て弁護士が行うため、被害者としては、弁護士からの報告を待つことになります。

 

 

後遺障害認定された場合に弁護士に依頼するメリット

示談交渉を全て弁護士に任せることができる

上記したように、弁護士に依頼した場合には、示談交渉の全てを弁護士が行います。

そのため、保険会社と電話でやり取りする必要がなくなります。

保険会社は、朝9時〜夕方5時(一部保険会社は6時)で電話がつながらなくなるため、日中に活動されている場合には、なかなか電話連絡をすることが出来ず、スムーズに示談交渉を進められないことがあります。

また、保険会社の担当者との電話のやり取りについて、ストレスを感じられる被害者も多いかと思います。

弁護士に依頼することでこうしたストレスを払拭することが出来ます。

賠償金の増額が期待できる

上記したように、賠償金の算定基準は、自賠責保険基準、任意保険会社基準、裁判基準の3つの基準があります。

被害者と保険会社が示談交渉する場合には、自賠責保険基準あるいは任意保険会社基準を踏まえて交渉するのが通常です。

他方で、弁護士が保険会社と示談交渉する場合には、最も高い賠償水準である裁判基準を前提に示談交渉を行いますので、結果的に被害者が交渉される場合よりも賠償額は高額になるのです。

 

まとめ

後遺障害に認定された場合には、賠償額は高額になりますので、示談するにあたっては、示談金額が妥当な金額なのか慎重に見極めなければなりません。

被害者自身で見極めることは困難かと思いますので、後遺障害に認定されたら、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

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