膝十字靭帯損傷の後遺症【弁護士が解説】

目次
膝十字靭帯損傷(前十字靭帯、後十字靭帯)とは
膝の靭帯には、内側側副靭帯、外側側副靭帯、前十字靭帯、後十字靭帯の4つの靭帯があります。
内外側側副靭帯は上下の骨が左右にずれるのを防ぎ、前・後十字靭帯は前後にずれるのを防いでいます。
前十字靭帯はACL、後十字靭帯はPCLとそれぞれ呼ぶこともあります。
前十字靭帯損傷
前十字靭帯は、大腿骨の外側と脛骨の内側をつなぐ靭帯で、脛骨が前へとずれるのを防ぐ役割をしています。
スポーツ選手がこの靭帯を損傷するケースがありますが、交通事故においては、バイクや自転車などの事故で多く発生しています。
断裂することが多く、その際ブチッという音がなります。
前十字靭帯の損傷についての検査では、ラックマンテストというテストを行います。
これは、膝を15~20°ほど曲げて前に膝を引き出します。
前十字靭帯を損傷している場合、脛骨が異常に前に出てきてしまいます。
こうした検査を受けることで、前十字靭帯の損傷を確認することができるのです。
また、ストレス(圧力)をかけると、前十字靭帯が損傷している場合には脛骨が前方に飛び出ますので、それをレントゲンで撮影することで、損傷の程度を診察します。
これは画像所見として後遺障害等級認定に当たって重要な資料になります。
損傷の程度が激しく、膝関節に動揺性が認められ、常時装具の必要性があるような場合には、関節の用廃として8級7号が認定されることがあります。
また、靭帯の再建手術を受けた場合、8~12か月のリハビリが必要となります。
弊所の膝前十字靭帯損傷により後遺障害に認定された事例については、こちらをご覧ください。
後十字靭帯損傷
自動車事故の場合、膝をダッシュボードに打ちつけてしまうことが多くあります。
この場合、膝を打ちつけた衝撃で、後十字靭帯に損傷を来すケースがあります。
これは膝を90度に曲げた状態のまま、事故の衝撃でダッシュボードに膝を打ちつけると、脛骨が後方へ押しやられてしまうためです。
後十字靭帯の損傷は前十字靭帯の場合と比べて、痛みが少ないのが特徴ですが、後十字靭帯損傷とともに、膝蓋骨(膝の皿)の骨折を併発する可能性が高い症状です。
前十字靭帯損傷と同じくストレスレントゲンがとても重要です。
後十字靭帯損傷の場合は、ストレスレントゲンにより断裂があれば脛骨が後方に出た状態で写ります。
内側側副靭帯損傷
内外の側副靭帯のうち、損傷が多いのは、内側の側副靭帯です。
内側側副靭帯はMCLといいます。
外側からの強い圧力がかかった場合、これに耐え切れずに内側側副靭帯が切れることがあります。
交通事故でも横からの衝突による外側からの強い衝撃が原因で発症します。
内側の靭帯が損傷しているので、膝をまっすぐ伸ばした状態で脛骨を外側へ動かすと、膝がグラつくという症状が出ます。
こうした靭帯損傷にはストレスレントゲンとあわせてMRIも重要な画像所見の資料となります。
弊所の膝内側側副靭帯により後遺障害に認定された事例については、こちらをご覧ください。
複合靭帯損傷
交通事故において、衝突の強い力が膝に集中した場合には、膝の2つ以上の靭帯を損傷することがあります。
この場合、一つの靭帯の損傷に比べて、膝はより不安定になり、重度の後遺障害を生じるおそれがあります。
すなわち、膝の用廃として8級7号に該当する可能性があります。
膝の靭帯の後遺症
神経症状
膝の靭帯を損傷することで、痛みなどの神経症状が残ってしまうことがあります。
痛みが残った場合の後遺障害等級は以下のとおりです。

神経症状(痛みなど)が残っていることを医学的に証明できる場合に、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として認定を受けることができます。
したがって、12級13号に該当するには、MRIで靭帯の損傷が明確に確認できることが必須となります。

14級9号の場合、神経症状が残っていることを医学的に説明できる場合に認定されます。
12級13号との違いは、医学的に「証明」できるのか、あるいは、「説明」できるのかの違いです。
14級9号の判断要素としては、事故規模・態様、治療の内容・頻度、症状の経過、画像所見の有無、神経学的検査の結果などが考えられます。
膝の靭帯を損傷し、14級9号に認定された弊所の解決事例はこちらをご覧ください。
動揺関節
膝の靭帯は、関節を安定させる機能もあるため、損傷した場合には、膝関節が不安定になることがあります。
こうした場合には、以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。
8級 常に硬性補装具を必要とする場合
10級 時々硬性補装具を必要とする場合
12級 過激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としない場合
機能障害
膝の靭帯を損傷することで、膝の可動域(動く範囲)が制限されることがあります。
こうした場合には、可動域が制限されている程度に応じて、後遺障害等級が決まっています。

「下肢の3大関節」とは、股関節、膝関節、足関節(足首の関節)を指します。
「用を廃した」とは、全く膝関節が動かない状態や、動いたとしても、ケガをしていない方の膝関節と比べて10%以下しか動かないような場合を指します。

「機能に著しい障害を残すもの」とは、膝関節の動く範囲が、健側と比べ1/2以下に制限されている場合を指します。

「関節の機能に障害を残すもの」とは、膝関節の動く範囲が、ケガをしていない側の膝関節と比べ3/4以下に制限されているような場合を指します。
膝の骨を骨折して、12級7号に認定された弊所の解決事例は、こちらをご覧ください。
後遺障害申請にあたっての注意点
膝の靭帯を損傷することで膝関節が曲げづらくなる症状がある場合、必ず、後遺障害診断書に可動域検査(どの程度動くかの検査)の結果を記載してもらわなければなりません。
可動域検査の結果が記載されていないと、審査できないため可動域制限の後遺障害が認定されないことになります。
また、膝の靭帯損傷を主張する場合には、MRI画像の提出が必要です。
動揺関節となっている場合には、ストレスレントゲンの提出する必要があります。
ストレスレントゲンとは、膝に手や器具を用いて圧を加えて、骨のずれた状態でレントゲンを撮影するものです。
膝の靭帯の後遺障害慰謝料
膝の靭帯を損傷した場合には、8級、10級、12級、14級に該当する可能性があります。
それぞれの等級の後遺障害慰謝料、労働能力喪失率は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 自賠責保険基準 | 裁判基準 | 労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
8級 | 324万円 | 830万円 | 45% |
10級 | 187万円 | 550万円 | 27% |
12級 | 93万円 | 290万円 | 14% |
14級 | 32万円 | 110万円 | 5% |
膝の靭帯損傷による逸失利益
逸失利益とは、事故により後遺症が残って働きづらくなったことにより、将来減収することに対する補償です。
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
後遺障害逸失利益の計算式
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
以下では、45歳、会社員、年収450万円を前提として計算しています。
労働能力喪失率については、上記表をご参照ください。
※なお、下記の逸失利益の計算は、あくまでも目安であり、事案によって金額は変わることはあります。
具体例 45歳、会社員、年収450万円の場合
後遺障害逸失利益についての具体的計算方法は以下のようになります。

450万円 × 45% × 13.1630(※)= 2665万5075円
※2020年4月1日以降の事故は、「15.9369」となります。

450万円 × 27% × 13.1630(※)= 1599万3045円
※2020年4月1日以降の事故は、「15.9369」となります。

450万円 × 14% × 13.1630(※)= 829万2690円
※2020年4月1日以降の事故は、「15.9369」となります。

450万円 × 14% × 7.7212(※)= 486万4356円
※2020年4月1日以降の事故は、「8.5320」となります。

450万円 × 5% × 4.3295(※)= 97万4137円
※2020年4月1日以降の事故は、「4.5797」となります。
後遺症の逸失利益について詳しく確認されたい場合には、こちらをご覧ください。


