自賠責保険・共済とは?【弁護士が解説】

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士
所属 / 福岡県弁護士会
保有資格 / 弁護士
専門領域 / 個人分野:交通事故 法人分野:企業顧問(労働問題)
はじめに
交通事故で加害者になっても被害者になっても、損害に対して自動車保険から支払いを受けることが多いと思われます。
交通事故の賠償や補償に使われる自動車保険はとても身近な存在ですが、内容があまりよく知られていません。
そのため、交通事故で被害者になったときや加害者になったとき、損をしないよう、保険内容を知ることは大切なことです。
自動車保険には、自賠責保険・共済と任意自動車保険の2つの種類があります。
今回は、交通事故専門の弁護士が自賠責保険・共済の内容を説明します。
自賠責保険・共済の根拠
自賠責保険・共済には、損害保険会社が運営する自動車損害賠償責任保険と共済組合や生活協同組合などが運営する自動車損害賠償責任共済があります。
この2つは、ともに自動車損害賠償保障法(以下、自賠法)に基づき運営される賠償保険です。
2つの保険の違いについてはこちらをご覧ください。
自賠責保険・共済は強制保険
一般道路を走る自動車、バイクなどナンバープレートをつけている車両は必ず自賠責保険・共済に加入しなければなりません。
自賠責保険・共済に加入していないと1年以下の懲役、50万円以下の罰金、免許停止などの処分を受けることになります。
そのため、自賠責保険・共済は、強制保険と言われています。
自賠責保険・共済の保険金はどんな場合でも支払われる?
自賠責保険・共済から保険金が支払われるのは、「保有者」が「自賠法3条の責任」を負うときです。
「保有者」とは「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するもの」(自賠法2条2項)をいいます。
例えば、盗難車の泥棒が起こした交通事故は「保有者」による交通事故でないため、自賠責保険・共済の保険金は支払われません。
「自賠法3条」の責任とは、「他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する」責任をいいます。
自損事故、物損事故は「他人の生命又は身体を害したとき」という要件を満たさないため、自賠責保険・共済から保険金は支払われません。
また、保険契約者・被保険者がわざと交通事故を起こしたとき、自賠責保険・共済から保険金は支払われません(自賠法14条)。
あくまで自賠責保険・共済から保険金が支払われないというだけであって、この場合も加害者の被害者に対する民事上の賠償責任は生じます。
自賠責保険・共済の補償内容
自賠責保険・共済の死傷者への補償限度額は、以下のように設定されています。
補償限度額 | |
---|---|
死亡の場合 3000万円 | 死亡の場合には、葬儀費用、死亡逸失利益、死亡慰謝料が対象となっており、限度額は3000万円です。 |
傷害の場合 120万円 | 傷害部分については、治療関係費(治療費、看護量、諸雑費、通院交通費、義肢等の費用、診断書等の費用)、文書料、休業損害、慰謝料が対象となっており、限度額は120万円です。 |
後遺障害の場合 75万円~4000万円 (認定される等級により異なります) |
後遺障害部分は、認定された等級によって限度額は変わりますが、いずれの等級でも後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益が損害項目の対象となっています。 |
他人の自動車と物の賠償、自分の車両と物の修理費、自分自身の怪我の治療費は自賠責保険・共済では補償されません。
これらの損害は任意保険で填補されることになります。
加害者が保険に加入していない場合の適用可能な保険についてはこちらをご覧ください。
保険金の請求権者・支払い時期
自賠責保険・共済への請求は、加害者(自賠法15条)、被害者(自賠法16条)どちらからも可能です。
加害者が任意保険に加入している場合には、被害者は、任意保険会社に治療費など損害全般を補償してもらうことになるので、自賠責保険に直接請求するということは少ないでしょう。
もっとも、加害者が任意保険会社に加入していない場合には、自ら自賠責保険・共済に直接請求することが考えられます。
この場合、被害者は、治療費など支出した場合には、適宜、自賠責保険・共済に請求することができます。請求金額が限度額内であり、自賠責保険・共済が事故の損害として認定すれば、請求の都度、賠償金が支払われることになります。
自賠責保険・共済の重過失減額
任意保険の場合には、当事者双方の過失割合に応じて保険金が減額されます。
例えば、被害者に100万円の損害が生じたものの、事故の発生につき30%の過失がある場合には、その30%である30万円が減額され、70万円が賠償されることになります。
自賠責保険・共済では、被害者に過失が70%以上認められる場合にのみ、賠償金が減額されます。
つまり、事故当事者に過失が65%あったとしても、自賠責保険・共済では、一切過失相殺されないのです。
過失が70%以上となった場合の減額割合は下表のとおりです。
被害者の過失割合 | 後遺障害・死亡の場合 | 傷害の場合 |
---|---|---|
7割未満 | 減額なし | 減額なし |
7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 | |
9割以上10割未満 | 5割減額 |
まとめ交通事故の場合、自賠責保険や任意自動車保険の仕組みを理解し、加害者や保険会社との示談交渉を行う必要があります。
専門家でないと難しい部分も多いため、まずは弁護士にご相談されることをお勧めします。
弊所では交通事故専門の弁護士がお話をお伺いいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士
所属 / 福岡県弁護士会
保有資格 / 弁護士
専門領域 / 個人分野:交通事故 法人分野:企業顧問(労働問題)
実績紹介 / 交通事故の相談件数年間300件超え(2019年実績)を誇るデイライ
ト法律事務所のパートナー弁護士であり、北九州オフィスの所長を務める。
交通事故をめぐる問題に関して、NHK、KBCなどのメデイアへの取材実績があ
り、弁護士向けのセミナー講師としても活動。
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